研究留学 vs 臨床フェロー | 永住権を含めた米国進出プラン

アメリカでキャリアを築こうと考える医師にとって、「まずは研究留学か、それとも臨床フェローか?」という問いは避けて通れないテーマです。将来の診療機会、給与、さらには永住権の取得にも直結するためです。
本記事では、研究留学と臨床フェローのメリット・デメリットを整理し、永住権を含めたアメリカでのキャリアプランを比較検討します。
目次
専門医として米国永住権を目指すルート
すでに日本で専門医資格を有する医師にとって、アメリカでのキャリアのスタートには主に以下の2つのルートが考えられます:
- 研究留学(Research Fellowship):非臨床の研究職として大学や研究機関に所属
- 臨床フェロー(Clinical Fellowship):米国の医療機関で臨床研修を積む形
この2つは給与体系、ビザの種類、永住権への近さ、USMLEの必要性など、あらゆる面で違いがあります。
まずは、ざっくりと表で感覚的に理解をしましょう。
項目 | 研究留学 | 臨床フェロー |
---|---|---|
主な活動 | 研究・論文執筆 | 診療・手術 |
必要な試験 | 原則不要 | 多くはUSMLE必須(Step1,2CKとOET) |
ビザの種類 | J-1(非臨床) / H-1B / O-1 | J-1(臨床)or H-1B |
年収の目安 | $50,000〜$70,000 | $60,000〜$100,000 |
永住権との距離 | 遠い(NIWなど高度な実績が必要) | 比較的近い(H-1B→就職→永住申請) |
競争率 | 低〜中 | 中〜高 |
詳しくみていきましょう:
研究留学のメリット・デメリット
研究留学は、米国の大学や研究機関で主に研究に従事するルートです。
J-1(研究者ビザ)や雇用主スポンサーのH-1B/O-1ビザなどで渡米し、研究プロジェクトに参加します。
専門医として得た臨床経験を生かしつつ、国際共同研究や論文発表を通じて実績を積むことができます。
メリット① ビザの選択肢
交流研究者向けJ-1、雇用主スポンサー研究職としてのH-1B、業績によってはO-1ビザも利用できます。
特にJ-1(研究者プログラム)は、帰国義務の免除対象にならないケースが多いです。(2年帰国義務なし)。
H-1B/O-1もビザ枠には制約がありますが、J-1の帰国義務に縛られない点が利点といえます。
メリット② USMLE不要で渡航可
米国の医師免許を取得せずにスタートできるため、渡航までの準備期間が比較的短くて済みます。
英語のスコアや書類準備は必要ですが、臨床フェローに比べて心理的・手続き的なハードルは低めです。中には、研究留学をしながらUSMLE対策をされる方も少なくありません。
メリット③ 学術的キャリア構築
米国の研究機関で学術論文や学会発表の実績を重ねられます。
卓越した研究実績が得られれば、EB-1B(卓越した研究者)やEB-1A(卓越能力)などのグリーンカードカテゴリーを狙えます。またEB-2 NIW(National Interest Waiver、国益免除)では、研究内容が国益に資すると認められれば、自ら申請(自己推薦)できる可能性があります。
メリット④ 柔軟なキャリア展望
うまくいけば大学教員や研究所の研究者、製薬企業など多様な職が目指せます。
また、研究実績が評価されれば、学術的立場での昇進(助教→准教授→教授など)も可能ではあります。
デメリット① 臨床経験喪失
患者診療から離れるため、臨床技能や医療チーム運営経験を得る機会が限られます。
将来的に臨床医となる道を選ぶ場合、米国でのUSMLEや研修プログラムなどの受験が必要です。
デメリット② 永住権取得の難易度
研究者として永住権を申請するには高い業績が要求されます。
NIWであっても「研究が国益に資する」ことを示す必要があり、申請難易度は高いです。自身で申請できる点は有利ですが、雇用者による労働証明(PERM)免除の一般的な特例(Schedule Aなど)は研究者には適用されないため、適切なカテゴリー選定が重要になります。
デメリット③ 給与・安定性
ポスドクや研究員は固定給の研究助成金に依存するため、給与水準は低め(初期は年50~100千ドル程度が多い)で、長期雇用が保証されにくいです。
研究期間は1~3年程度の契約が一般的で、次の研究資金獲得や雇用主の裁量で更新・昇進が決まる仕組みです。
デメリット④ 英語力不足
研究活動には高度な専門英語力が必要ですが、英語力が足りないと研究成果の発表・論文掲載に苦労する可能性があります。
臨床フェローのメリット・デメリット
臨床フェローは、日本での専門医研修を終えてから、米国の病院でさらに臨床経験を積むルートです。
専門分野のフェローシッププログラムに参加し、臨床技術の研鑽や米国医療への適応を図ります。患者診療を主体とするため、臨床能力を活かしながら米国医療に携わる機会となります。
メリット① 臨床経験の継続・向上
日本の専門医経験を生かしながら米国の先端治療やチーム医療を学べます。
帰国せず米国で臨床キャリアを志向する場合、この経験が米国での医師雇用や専門医取得に役立ちます。
メリット② ネットワーク構築
臨床現場での信頼関係や推薦状は、その後のポジション獲得やビザ申請において極めて重要な役割を果たします。
メリット③ 給与・安定性
臨床フェローの給与はプログラムによりますが、一般には研究職より高いことが多いです。
大学病院のフェローの場合、年$60~$100千(経験年次に応じて変動)程度です。H-1B雇用なら職が続く限り身分は比較的安定し、病院側がスポンサーになってPERM申請までサポートしてくれることもあります。
メリット④ 永住権への道
医療過疎地で5年間従事することでPERM免除の医師特例NIW(Physician NIW)を申請できる資格が得られます。
米国病院から雇用されH-1Bビザで働き始めれば、一般の雇用ベース(PERM+EB-2)で永住権取得を目指すことも可能です。
デメリット① 資格要件の高さ
ECFMGの取得(Step1/Step2 CKならびにOETの合格)が必要です。
H-1Bでの滞在を目指す場合は、さらにStep3合格と州ライセンスの取得も求められます。一般的には2~3年の対策期間が必要です。
デメリット② 競争倍率
米国内でのレジデンシー経験者との競争になるため、フェローシップのポジション獲得には強い実績と対策が求められます。
デメリット③ ビザ・帰国義務
J-1ビザ(ECFMGスポンサー)の形態が多く、米国での研修修了後に2年間の母国居住義務が課せられています
Conrad 30などの免除プログラムで医療過疎地に3年以上勤務すればこの帰国義務を免除できますが、州によっては定員が限られているのが実態です。
先述の、J-1からH-1Bへの切替も可能ですが、雇用主のスポンサーシップ、州ライセンス、Step3の合格など複数の条件を満たす必要があります。
デメリット④ キャリアの制約
臨床フェローは多くの場合、契約ベースや期間限定ポジションであるため、フェロー終了後の雇用確保が課題となります。
病院勤務医として残留するには、州医師免許取得と雇用延長が必須です。研究職と比べるとアカデミックな地位への昇進は限定的となり、臨床メインのキャリアが想定されます。
最後に
以上、研究留学と臨床フェローそれぞれのメリット・デメリットを整理し、永住権を含めたアメリカでのキャリアプランの紹介でした。
研究留学と臨床フェローは、いずれも米国で専門医として活躍し永住権を目指す手段ですが、その性質は大きく異なります。
なお、近年ではUSMLEなしで参加可能な臨床フェローシップも一部報告されていますが、多くは観察中心(Observership的)であり、診療の自由度や将来の永住権取得には制限があります。
アメリカでのキャリアを真剣に考える医師にとって、ECFMGの取得とH-1B取得は今なお最も確実なルートです。
この記事が、米国進出を検討されている先生方の一助となれば幸いです。
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